椿餅(つばいもちひ・つばきもち)

源氏物語 第34帖「若菜上」で登場

椿餅
風俗博物館で2009年4月に撮影


 椿餅(つばいもちひ)は、南北朝時代に書かれた源氏物語の注釈書『河海抄(かかいしょう)』によると、椿の葉を合わせて餅(もちい)の粉に甘葛(あまずら)をかけて包みたる物と説明されているようです。


 源氏物語「若菜上」において、光源氏41歳 3月の夕暮れ、六條院春の御殿で光源氏のお召しにより若者達が蹴鞠に興じていました。

蹴鞠

風俗博物館による蹴鞠の展示(2006年下鴨神社で撮影)



 蹴鞠ののち、饗宴が催され“椿餅”の名が登場します。

 

わざとなく、椿餅、梨、柑子やうのものども、さまざまに箱の蓋どもにとり混ぜつつあるを、若き人びとそぼれ取り食ふ。さるべき乾物ばかりして、御土器参る。


(訳:気楽に、椿餅、梨、柑子のような物が、いろいろないくつもの箱の蓋の上に盛り合わせてあるのを、若い人々ははしゃぎながら取って食べる。適当な干物ばかりを肴にして、酒宴の席となる。)



 【本文・訳は渋谷栄一氏のwebサイト『源氏物語の世界』より引用】


 蹴鞠後の賑やかな雰囲気のまま、若い貴公子たちは、はしゃぎながら果物や椿餅を食べたと記されています。


梨と柑子、椿餅
  右上:梨と柑子
右下:椿餅
左側:干物
蹴鞠後の饗宴

蹴鞠後の饗宴
(上の2枚の写真は風俗博物館で2001年に撮影)


 桜が咲く季節に梨があるのは、違和感を覚えます。干柿のような保存方法があったかもしれませんし、「平安時代史事典」によると梨は塩漬けして食べられることもあったようです。

 柑子(こうじ)はミカンの一種です。干物は酒の肴でした。

 椿餅は軽食代わりとして食べられた餅菓子で、日本最古の餅菓子であるという説もあります。
 椿餅について、「源氏物語の鑑賞と基礎知識 bP4 若菜上(後半)」によると、

干飯や餅の粉を甘葛や干柿の糖分で固め、椿の葉二枚で挟んだ菓子。多く蹴鞠の後、食する。


とあります。
 蹴鞠の後、食べられることが多いものの、これは源氏物語「若菜上」の蹴鞠の場面で描かれていることにより、後世、様式化したと推測されます。


 椿という字は、「春、花が咲く」=春+木の合字です。それをツバキと訓むのは、葉に光沢がある「艶葉木(ツヤバキ)」または葉に厚みがある「厚葉木(アツハギ)」が由来だそうです。(諸説あり)


 現在、椿餅は1月〜2月頃、和菓子店の店頭に並ぶことが多いようです。甘味料が甘葛煎(あまずらせん)から砂糖に替わり、餅の中に餡が入るようになり、今に伝えられています。


 菓子店によって椿餅は以下のような相違点があるそうですよ。

 ・餅の生地は白いものや、梔子(くちなし)と肉桂(ニッケイ=シナモン)で色づけしたものがある。
 ・椿の葉の裏表の使い方が異なる。

それぞれのお店の違いを楽しみながら、いただきたいお菓子ですね。



★おいしくいただきました!!

椿餅 『京菓子司 甘春堂』さんの「椿餅」

 2009年1月に『京菓匠 甘春堂』さんの「椿餅」をお取り寄せしていただきました。(京都市)

画像をクリック!!
 椿餅  『とらや』さんの「椿餅」

 2016年2月に『虎屋菓寮』で「椿餅」をいただきました。(京都市)

画像をクリック!!
 椿餅 『有職菓子御調進所 老松』さんの「亥の子餅」

 2016年2月に『老松 嵐山店」で「亥の子餅」をいただきました。(京都市)

画像をクリック!!




【参考】
『源氏物語の鑑賞と基礎知識
bP4 若菜上(後半)』
監修:鈴木一雄 編集:中田武司 発行:至文堂
『平安時代史事典』CD-ROM版 監修:角田文衛 編:古代学協会
  古代学研究所
発行・角川学芸出版
平成二十年
京菓子資料館第四回企画展
「京菓子でつづる源氏物語展」
説明書
主催:(財)ギルドハウス京菓子 京菓子資料館
京菓子司 俵屋吉富
源氏物語千年紀
「源氏物語と和菓子」展
冊子
編集:株式会社 虎屋 虎屋文庫 虎屋十七代 黒川光博

ページトップへ

『花橘亭〜源氏物語を楽しむ〜』 MENU

Copyright (C) なぎ All Rights Reserved.
inserted by FC2 system