Home源氏物語追体験鵜飼鑑賞鵜飼(うかい)

鵜飼(うかい)

源氏物語 第18帖「松風」・第19帖「薄雲」・第33帖「藤裏葉」で登場

篝火 大堰川での鵜飼
篝火(かがりび)
京都・大堰川での鵜飼の様子


 鵜飼の歴史は古く、『源氏物語』作中にも3度登場します。鵜飼漁をする人を「鵜匠(うしょう)」と呼びます。

 鵜を飼いならして、鵜が川魚を飲み込まないよう首結いをし、逃げださないよう羽の一部を切ります。
鵜飼の漁法は、篝火で川魚を呼び寄せ、手縄(たなわ)で操る鵜が鮎(あゆ)や鮒(ふな)・鯉(こい)などを飲み込んだところを鵜匠が船に引き上げ魚を吐かせます。

 鵜が捕った鮎は傷みがないため、宮廷への献上品となっていました。鵜匠は宮廷へ新鮮な鮎を納める代わりに京内での鮎の販売権を得ていました。



源氏物語 第18帖「松風」 桂の院での饗宴

 光源氏の別荘・桂の院(かつらのいん)で饗応(きょうおう=もてなしの宴会)が行われるにあたって、鵜匠たちを呼んでいます。
 

にはかなる御饗応と騷ぎて、鵜飼ども召したるに、海人のさへづり思し出でらる。

(訳:急な御饗応だと大騷ぎして、鵜飼たちを呼び寄せると、海人のさえずりが自然と思い出される。 )


 「桂の院」に集まった殿上人(でんじょうびと)たちと桂川での鵜飼を見物するために、鵜匠たちが呼ばれました。鵜匠たちが交わしている言葉は、明石の海人(あま=漁師)たちが話していた意味のわからない言葉のようだと思い出すのでした。



源氏物語 第19帖「薄雲」 光源氏、大堰の邸に住む明石の君を訪問

 明石の君が住む大堰の邸から、光源氏と明石の君が大堰川で行われている鵜飼の篝火を見て歌を詠む場面があります。

いと木繁き中より、篝火どもの影の、遣水の螢に見えまがふもをかし。〜(略)〜

「漁りせし影忘られぬ篝火は
  身の浮舟や慕ひ来にけむ
 思ひこそ、まがへられはべれ」

 と聞こゆれば、

 「浅からぬしたの思ひを知らねばや
  なほ篝火の影は騒げる
 〜(略)〜」

(訳:たいそう茂った木立の間から、いくつもの(鵜飼の)篝火の光が、遣水の上を飛び交う螢のように見えるのも趣深く感じられる。

明石の君 「あの明石の浦の漁り火が思い出されますのは
         わが身の憂さを追ってここまでやって来たのでしょうか
       間違われそうでございます」
       と申し上げると、
光源氏 「わたしの深い気持ちを御存知ないからでしょうか
        今でも篝火のようにゆらゆらと心が揺れ動くのでしょう」 )


 明石の君が住む大堰の邸宅では、木立の間から大堰川で鵜飼をする篝火の光が、飛び交う蛍の光のように見え、情緒ある雰囲気です。

 “明石の浦で見た漁火が思い出される鵜飼舟の篝火は、明石の漁火が浮舟となって辛い思いを抱きながらここまでやって来たのでしょうか”と明石の君は詠みます。
光源氏を慕って上京した明石の君の恋情と不安をこめた歌です。

 それに対して、“私のあなたに対する思いを知らないからなのか、なおも篝火の火影のように不安なのですね”と光源氏は返歌を詠みます。


「平安時代好きの京都旅行記」より:明石の君の大堰の邸候補地



源氏物語 第33帖「藤裏葉」 六條院行幸

 神無月(旧暦10月)20日過ぎに、光源氏の邸宅・六條院へ冷泉帝と朱雀院が行幸・御幸されました。

東の池に舟ども浮けて、御厨子所の鵜飼の長、院の鵜飼を召し並べて、鵜をおろさせたまへり。小さき鮒ども食ひたり。

(訳:東の池に舟を幾隻か浮かべて、御厨子所の鵜飼の長が、院の鵜飼を召し並べて、鵜を下ろさせなさった。小さい鮒を幾匹もくわえた。) 


 冷泉帝・朱雀院を迎えるにあたって、六條院の池に船を浮かべ、宮中で食事の用意を担当するする御厨子所(みずしどころ)の鵜飼の長官が、六條院所属の鵜匠を率いて鵜飼を行いました。
 これは冷泉帝と朱雀院にゆっくりと鵜飼の様子をご覧いただくために用意したのではなく、邸宅内を移動する途中の中休みなのでした。鵜が捕った池の魚は献上され、この日の御膳の料理となります。

風俗博物館での展示 鵜飼
船を用いない徒(かち)遣いの鵜飼の様子
風俗博物館 2005年展示「六條院行幸」より


風俗博物館展示:「六條院行幸」(2005年夏)・「六條院行幸」(2005年秋)



 以上、『源氏物語』に登場する鵜飼でした。

 現在も、鵜飼を鑑賞できる地域が国内数ヶ所あります。
最も有名なのは、岐阜県 長良川の鵜飼ですよね。
長良川の鵜飼『写真提供:(社)岐阜県観光連盟』
岐阜・長良川の鵜飼 『写真提供:(社)岐阜県観光連盟』
(社)岐阜県観光連盟⇒http://www.kankou-gifu.jp/
※長良川の鵜匠は、宮内庁に属していらっしゃいます。



★興味深く見学させていただきました!!
嵐山宮廷鵜飼船 嵐山通船株式会社さんの「嵐山宮廷鵜飼船」

 2009年8月に京都定期観光バス「宮廷鵜飼と夕景の嵐山」コースで、鵜飼を鑑賞しました。光源氏と明石の君も見た大堰川の鵜飼の篝火です!

画像をクリック!!



 【このページの源氏物語本文・訳は渋谷栄一氏のwebサイト『源氏物語の世界』より引用】

【参考】
『源氏物語の鑑賞と基礎知識
No,20 絵合・松風』
監修:鈴木一雄 編集:田中隆昭 発行:至文堂
『源氏物語の鑑賞と基礎知識
No,31 梅枝・藤裏葉』
監修:鈴木一雄 編集:河添房江 発行:至文堂
『源氏物語の鑑賞と基礎知識
No,33 薄雲・朝顔』
監修:鈴木一雄 編集:小山利彦 発行:至文堂
『源氏物語と京都
六條院へ出かけよう』
監修:五島邦治 編集:風俗博物館 発行:光村推古書院
『平安時代史事典』CD-ROM版 監修:角田文衛 編:古代学協会
  古代学研究所
発行・角川学芸出版


ページトップへ

『花橘亭〜源氏物語を楽しむ〜』 MENU

Copyright (C) なぎ All Rights Reserved.
inserted by FC2 system